「松井繁」と「峰竜太」
歴代最強のボートレーサーは誰か。これは何をもって「最強」とするかにもよるし、ファンの感じ方にもよるだろう。私は競艇を見出してからまだ10年程と、35年近く見てきた競馬に比べて知識も見る目もない。そんな私が、今のところ「最強」と思うのは、「松井繁」と「峰竜太」である。
「峰竜太」は、ターンの速さや競技としての競艇の強さで言えば、歴代でもかなり上位にくるレーサーではないだろうか。一方の「松井繁」は、腕は当然として勝負やレースに強いという感じがする。ただ、私が競艇を見出した頃は、選手としての全盛期は過ぎていたように思う。
ネットなどのファンの声や競艇のサイトを見ると、やはり「最強」はみなそれぞれ違い、色々な名前が挙げられている。例えば、ある質問サイトでの「歴代最強選手は誰だと思いますか?」の質問に対しての回答はこうだ。
【どこに強さを求めるかで一番強い選手が変わる。通算最多勝利数(3417勝)なら「北原友次」、記念の優勝回数(77回)なら「彦坂郁雄」、SGの優勝回数(17回)ならで「野中和夫」で、現役なら「松井繁」だろう。】(2009年の書き込み)
また、競艇を扱ったサイトでの「競艇の最強選手」では、初代艇王「彦坂郁雄」、モンスター「野中和夫」、艇王「植木通彦」、ミスター競艇「今村豊」の4名が挙げられている。なお、通算獲得賞金(2024年現在)では、「松井繁」が41億を超えており、2位の「今村豊」の29億に大差をつけて君臨している。
「彦坂郁雄」と「野中和夫」
このように、誰が最強かとは一概に言えないが、どこを見ても「彦坂郁雄」と「野中和夫」の名前は必ず出てくることから、この二人が双璧であることだけは間違いないようだ。年齢的には彦坂のほうが7つ年上であり、野中のデビューが遅かったことからも、時代的には彦坂のほうが少し前になるが、1972年前期〜1976年前期までの間は、期勝率第一位を彦坂と野中の2人だけで分け合っているように、活躍時期は重なっている。
初代艇王の彦坂は、主な記録だけでも次のように多く保持している。期勝率第1位回数…20回(歴代最多、2位は野中和夫の10回)、連勝記録…37連勝(歴代最多、2位は山岡豊年の25連勝)。この二つの記録は2位を大きく引き離しており、いかに突出した選手であったかが分かる。
ほかにも、特別競走(SG・GI)優勝回数…77回(歴代最多)、年間特別競走優勝回数…9回(歴代最多タイ)、全24場特別競走優勝(史上唯一)、優勝回数…179回(歴代最多)などの記録を保持している。
モンスター「野中和夫」は、歴代通算記録としては、SG優勝回数…17回(歴代最多、2位は松井繁の12回)、期間最高勝率…9.53などと多くはないが、長きにわたり競艇界のトップに君臨した最強レーサーという声は多い。
このように素晴らしい成績を残した二人であるが、私は「野中和夫」は知っていても、「彦坂郁雄」の名前は全く聞いたことが無かった。それは私だけではなく、一般的にもそうではないのだろうか。
私が関西人であることや、親友「横山やすし」との逸話などで有名であることを差し引いても、「野中和夫」と「彦坂郁雄」の知名度には差がありすぎる。ちなみに、「植木通彦」の名前は知っていたし、「松井繁」も聞いたことがあった。舟券を買い始める前からそうだった。
知名度の低い訳
そこで、「彦坂郁雄」のことを調べていくと、少しその理由が分かったような気がした。1988年9月、彦坂は整備規程違反により引退勧告を受け、同年3月にSGである総理大臣杯競走を制したばかりという、まだまだ実力のあるうちに、引退することになったという。
競艇界における引退勧告は、事実上の競艇界追放を意味するものである。彦坂は整備規程違反により懲戒選手扱いとなり、公式記録はレースの優勝者など修正の効かない記録を除いて全て参考記録扱いとなっており、競艇殿堂・競艇マイスター入りの資格も失っているという。これが「彦坂郁雄」の名前が、成績どおり残っていない原因だろう。
競艇に使われる部品や燃料は、全て備えつけの物を使用しなくてはいけない。よって、外部からの持ち込みは禁止されており、これが発覚した場合は整備規程違反となり、最悪の場合は、引退勧告という厳しい処分が下される。
彦坂は「部品を持ち込んだことは認めるが、レースで使用はしていない。」と弁明していたというが、その動機や詳細が語られることはなく、真相は不明のようだ。当時から競艇界では不正が多く、同じような持ち込みをやっていた選手はたくさんいたようだ。
ただし、引退後の選手の生活などを考え、公式発表や真相の解明を経ず、引退という形で波風を立てずに幕引きをしていたらしい。しかし、そのような対処では不正を防ぐことはできず、根絶することができなかった。
そのためか、競艇界はついに「整備規程違反は公表する」「偽計業務妨害容疑で警察に告訴する」といった強硬策に出ることとし、有名選手やスター選手を何名かを引退に追い込んだ。彦坂の引退も、その余波という側面とスケープゴートにされたという要素はあったのかもしれない。
疑惑の根絶を望む
このような事情もあってか、ネットには情報は少ないが、真偽はともかくいくつか不穏な情報があった。
(6着、6着、1着、1着と成績が急上昇。不審に思った主催者が抜き打ち検査を行った結果、サンドペーパーやエンジンオイル添加剤などを隠し持っていた。)
(インからスタートした彦坂郁雄選手がドカ遅れ。当時「妻が商売上の問題で暴力団関係者と交際があった」という報道から、八百長が疑われた。)
この時代のボートーレースは、モンキーターンなどの技術もなく、エンジンの立ち上がりと伸びがすべてだったようで、彦坂の絶対的な強さはそういった不正(部品や燃料などの持ち込み)にあったのかも知れない。
昔の競艇は何でもありだったと聞くし、不正、八百長などは事実あったのだろう。それは競艇に限らず、他の公営競技でも同じことだったはずだ。しかし、多少の羽目は外すことが許された芸能界やスポーツ界においても、不正・八百長どころか、不倫でさえ許されない時代である。
不審な事案や疑惑を闇に葬っていては、いつか世間からそっぽを向かれ、衰退してしまう。一定の不正や八百長を抑制はできていても、まだまだ疑惑がある事例や選手の名前は、ネットなどで散見されており、根絶には至っていないようだ。
西川昌希選手の逮捕と実刑の言い渡しにより、はっきりと八百長が存在していることが分かった。西川選手は「他にもやっている選手はいる」といい、八百長に限らず不正行為は行われている事にも言及している。
つい最近もまだまだ現役バリバリの選手の引退報道に関し、八百長や不正の疑惑があったが、それを払拭するような主催者の調査や報告はなされていない。競艇人気の上昇している今こそ、根絶するよう願いたい。

