2021年の有馬記念
有馬記念を予想中の私に、後ろから声を掛けてきた奴がいる。
『探しましたよ。そしてやっと見つけましたよ。負男さんですよね。』
「ああ、そうだが、君は?」
『30年前のあなたですよ。』
普通なら頭のおかしいやつに声を掛けられたと思うだろうが、流石に本人だけあって、それが若い頃の自分であることはすぐ分かった。
「タイムスリップしてきたのか?」
『そのようですね。』
『有馬記念の予想中ですか。私は先日しこたま負けました。取り返してください。』
「確かに、昔から有馬記念は当たった試しがなかったなぁ。」
私だけあって、タイムスリップしたことより有馬記念の方が気になるらしい。さすが競馬バカだ。30年前?というと、あっと驚くダイユウサクの年、1991年の有馬じゃないか。
1991年の有馬記念
マックイーンから買っていた私は、しこたま負けた。ダイユウサクが勝つことを知っていれば大儲けだったのに。昔の私が30年前から来るのではなく、今の私が30年前に戻っていれば。
「こっちから過去に行ってれば、有馬記念なんて簡単に当たるのにな。」
『そうですね。過去から来ても何の意味もないですね。』
と、そこで私はある違和感に気づいた。マックイーンに賭けて負けたことは覚えているが、今の私は未来に行ったことを覚えていない。ということは、目の前にいる若い頃の私は、過去に戻れなかったのか?いや、だったら、今、私がここにいるのがおかしい。
「マックイーンで負けたものダイユウサクが買ったことも、今の私は覚えているが、未来に行った記憶はない。」
『ということは、あなたは未来の私ではない?』
「いや、流石にそれはないだろう。私は未来の君であって、君は過去の私だろう。考えられるとすると、君は過去に戻るのだが、ここでの記憶を無くすんじゃないだろうか。」
『なるほど、そうかも知れません。』
1992年の有馬記念
『それが正解だったら、私が過去に戻ってたんまり稼ぐことができないじゃあないですか。』
「まて、覚えている限り私がレースの結果をメモにして書いてやろう。それを持って帰ればいいじゃないか。」
『できれば、私が戻ってすぐのレースにしてください。』
「そりゃそうだが、30年前のレースなんて覚えていない。いや、有馬記念の後だから、次は金杯か。まてよダイユウサクは有馬記念と金杯を両方勝ったよな。いや、順番は金杯→有馬記念か。」『分かんないすか。次の金杯。じゃあ、次の有馬記念、1992年の有馬は何が勝つんですか。』
「1992年、えーっと、あっ!メジロパーマーじゃないか。ダイユウサクの次も超大穴だったからよく覚えている。」
【1992年有馬記念の勝ち馬はメジロパーマー】と書いたところで昔の私に異変が。
『時間がない。来た時と同じ感じがします。私は過去に帰ってしまうようです。』
そういえば少し昔の私が透けてきている。
「仕方ない。このメモだけ持って帰れ。頼んだぞ!」
『任せてください・・・』
大金持ちに、なれるのか?
彼は過去へと帰って行った。これで私は大金持ちだ。安心して有馬記念に全財産を賭けた。もちろん外れたが心配はいらない。過去に戻った私がうまくやってくれるはずだ。さて、いつ反映されるのか。もうすぐか、いや明日の朝、目が覚めたら豪邸にいるのか。何にせよ楽しみしかない。
しかし、待てと暮らせど私が金持ちになることはなかった。
30年前に戻った若き日の私…
『頭が痛い。何だか遠い世界へ行っていたような・・・まあ、いいや、競艇にでも行こう。』
『ん?何だこれ【1992年有馬記念の勝ち馬はメジロパーマー】だって?確かこないだ障害走って、しかも2着だった馬じゃないか。こんなの来るわけない。ポイっ。』
私は、大金持ちになる未来をクシャクシャに潰して捨てた。


