単勝1.4倍
星海社という、あまり聞いたことのない出版社から出ている「トウカイテイオー伝説」という本を読んだ。先日も同社の「キタサンブラック伝説」を読んで堪能したところだ。ちなみに、どちらも内容の構成や絵柄などの意匠、フォントにいたるまで、非常にスマートでかっこいい。
それもあって、「キタサンブラック伝説」に続いて「トウカイテイオー伝説」も読むことにしたのだ。なお、このトウカイテイオー伝説の副題は「日本競馬の常識を覆した不屈の帝王」だが、本当に1年ぶりの有馬記念を勝った時は「競馬の常識を覆した」と思ったものだ。もちろん、馬券は外した。
ちなみに、キタサンブラック伝説のほうの副題は「王道を駆け抜けたみんなの愛馬」だったが、この「みんなの愛馬」というのは、私にはピンとこない。どうしてもゴリゴリの「北島三郎の愛馬」でしかないじゃんと思ってしまう。それはさておき、この「トウカイテイオー伝説」の最初「ダービー」での話のなかで次のような一節があった。
『単勝オッズ1.6倍は、父シンボリルドルフの単勝1.3倍に次ぐ高い支持率だった。(以降、ディープインパクト1.1倍、ナリタブライアン1.2倍、コントレイル1.4倍らが上回っている・・・』
ここで私がびっくりしたのは、本筋とは外れる「ダービーでのコントレイルの単勝1.4倍」という数字だった。私の競馬遍歴には結構な濃淡があり、コントレイルの活躍した2019年~2021年あたりは薄いほうなのだが、それでもコントレイルが無敗で3冠を達成していたのは知っていた。
弱い三冠馬
先の引用した単勝オッズも、トウカイテイオー以外は全て三冠馬のものであり、流石に三冠を取るほどの馬はダービーでも人気が集中していることが分かるが、それにしてもコントレイルの1.4倍というのは凄い数字だ。しかも、そのダービー後の京都新聞杯と三冠達成の菊花賞はともに単勝1.1倍だったというから、父ディープインパクトを彷彿とさせる人気と成績である。
しかし、セントライトに始まる8頭の三冠馬のうち、直近でありかつ人気も集中していたコントレイルが、最強の三冠馬どころか最弱といってもいいほど印象が薄く、私のなかではミスターシービーかコントレイルかというほど、弱い三冠馬との認識しかない。
これは三冠達成後、勝ったG1がジャパンCのただひとつだったことも原因だろう。8頭いる三冠馬のうち、シンザン、トウカイテイオーの父シンボリルドルフ、ディープインパクト、オルフェーブルの4頭は三冠後にG1(又はG1相当の8大競争)を複数勝っている。
菊花賞を最後に引退したセントライトは別として、残る3頭の三冠馬は三冠後G1を1つしか勝っていない。そのうちの2頭が、先ほど私が最弱三冠馬候補として名前を挙げたミスターシービーとコントレイルであるが、残る1頭はなんと最強馬を語るとき必ず名前の出る名馬「ナリタブライアン」である。
となると、三冠馬の強い弱いのイメージはG1を勝った数でもなさそうだ。やはり馬の強さは勝ったレースの数や勝率ではなく、レースでの印象や特に勝った時の勝ち方によるのだろう。その点、コントレイルはあまりにスマートに勝ち過ぎて、強い印象が残りにくい。
また、菊花賞の次のレース、ジャパンCでアーモンドアイに負けたこともあり、三冠馬として初めて年度代表馬になれなかったこと、クラシックで下した馬たちに活躍馬が出なかったことも、弱い三冠馬とのイメージを植え付ける原因だったろう。
最強の三冠馬になる可能性
これは海外(アメリカ)の話だが、弱い三冠馬どころか三冠全てで2着だったアリダーという馬がいる。アリダーはアメリカの三冠レースの全てにおいてアファームドに負け、競走馬として一度もアファームドより高い評価を受けることは無かった。
しかし、種牡馬としてはリーディングサイヤーになるなど大成功を収め、アファームドとの評価は全く逆転した。コントレイルも今年(2025年)の夏に産駒がデビューするが、馬産地での評価は上々というから、種牡馬として最強の三冠馬になる可能性を残している。
ディープインパクトという、三冠馬の先輩であり、競走馬としても種牡馬としても偉大な父を追い越すのは容易ではないが、三代続けての三冠馬という全人(馬?)未踏の記録も達成し、コントレイルの名を上げてほしい。これこそ競馬のロマンの神髄だ。

